★このメール新聞は、作者が1999年3月7日より6月6日まで、カナディアンロッキー麓のちいさな町・キャンモアにある登山スクールの3ヶ月コースを受講するにあたり、日本ではみられない長期山岳教育のあり方やカナダの自然、暮らしや文化などを作者の雑感をおりまぜながら、不定期にレポートするものです。登山だけにとどまらず、スキーあり、カヌーありですので、お仕事のあいまのちょっとしたブレイクとして楽しんでください。

大久保由美子のメール新聞 〜カナダからの手紙 vol.1

3月6日、いよいよカルガリー空港に到着する。

この1年半、紆余曲折して結局キャンセルとなってしまった8000m峰遠征に向けて、資金作りのためフルタイムで働き、本末転倒にも山に入る機会もめっきり減ってしまっていた私にとっては、少なくともこれから3ヶ月間は、ただ山のことだけを考えて暮らせるというだけで、幸せこの上ない。

国際線チェックインの時、窓側がいいとダダをこねたら、なんとビジネスクラスに振り替えてくれた。食事もちゃんとビジネス用で、エア・カナダは気前いいのだ。幸先の良いスタートと一人ほくそ笑む。

出発前はもう一つプレゼントがあった。仕事でご一緒した山岳映像作家の中村進さんからいただいた著書、「未知への旅」(読売新聞社)だ。その本には、中村さんの自然への率直な感謝の気持ちが赤裸々に描かれており、あらためて、“生きとし生けるものは、皆自然の一部なのだ” ということを思い出させてくれた。優しい気持ちになれる一冊だ。

さて、カルガリーは一面の雪景色。肌を切るような寒さは、きっと氷点下だろう。バンで今日の宿、キャンモアのB&Bへ向かう。キャンモアはカルガリーから車で1時間半のところにある、標高1500mの小さな町。周りは2000m台の鋭鋒に囲まれており、日本のように2000mあたりまで針葉樹林帯で、その上は横縞模様の美しい岩峰帯だ。白く雪に覆われているが、ネパールで見慣れた懸垂氷河が無く、私には新鮮に映る。

今日から3ヶ月、ここがフィールドになるのだ。

B&Bは一般の家庭がベッドと朝食を提供してくれる、50CAN$(4000円程度)前後の宿。同じ値段のホテルに比べると、オーナーの趣味を反映した、清潔で快適なお部屋なのだ。

プライベートが守られるのは今日まで。明日からスクールが始まり、宿はカナダ山岳会のドミトリーで相部屋になる。カナダ最後の1人の夜を、2回入浴して楽しんだ。