大久保由美子のメール新聞〜カナダからの手紙 vol.5

3月31日、オフ。早起きして生徒4人でレイク・ルイーズのスキー場へ。昨晩はダウンタウンのパブの”Happy Tuesday”(ビールが1.75カナダドルになる日)、みんなで遅くまで飲んだのだが、遊びとなると低血圧の自分もちゃんと目が覚めるから不思議。

レイク・ルイーズはキャンモアから車で1時間の、単独ではカナダ最大級のスキー場。もの凄い所を想像していたが(Tバーリフトしかないとか)、このぐらい大きな観光地になると、日本とまったく同じ設備なのだ。違うのは周りの広大なロッキーの景観と、リフト券+レンタルスキーで50CAN$(4000円弱)とリーズナブルなこと。久々の圧雪ゲレンデで“なんちゃってウェーデルン”を存分に楽しむ。

4月1日、本日はロッキーの中でも穴場的スキー場、ナキスカで技術クリニックの日。新雪状態で講習を受け、“なんちゃってウェーデルン”はアッという間に化けの皮を剥がされてしまう。
「常に大事な“SAKE”の瓶を、目一杯前に抱えるようにポールを持て」
とインストラクターに指導される。なんで酒なのだ。

4月2日、1日中オフィスで雪崩に関する机上講習。「CANADIANAVALANCH ASSOCIATION」という団体が推奨する教材とスライドによる非常にシステマティックな授業(ご興味ある方は、http://www.avalanche.ca/ をご参照ください)。

最後にリアルな雪崩事故の映画を見せられたが(雪崩3種の神器=ビーコン、ゾンデ、スコップを持ち、なおかつ天候、雪のコンディションをチェックした者とそうでない者が生死の運命を分かつというストーリー)、友人を失った事故に酷似していたため、思い出して悲しくなる。だからこそしっかり学ばねば。

オフィスで、このスクールを受講するきっかけとなった記事を山岳雑誌上で日本に紹介した難波寛氏と会い、
「英語?すぐに慣れるよ」
と暖かい言葉を授かる。彼も、以前はこの3ヶ月コースの受講者だったのだが、今では社員となり、カナダ在住の精悍な方だった。

夕刻、裏山(標高2,700m)にトレールがあると聞き、1人で走りに行く。出発点は1,400mだから、標高差が1,300mあり、トレーニングにはうってつけである。しかも頂上には360度が夕暮れのロッキーというビッグプレゼントが待っていた。帰ったらみんなに
「グリズリーが出るゾ!」
と脅かされる(本当なので、今度から一人で行くのは辞めようと思う)。

4月3日、明日からの雪崩講習スキーキャンプの準備デー。今回は自分たちで食糧計画を練るのだが、食べつけないものを準備するというのはけっこう難しいもの。例えば、朝はオートミールにバナナチップ、砂糖、粉ミルクを混ぜ、お湯をかけて食らう。昼はベーグルやピタに、サラミやクリームチーズをはさむ。夜はツナマカロニやチョーメンライス(なんと、お米とかた焼きそばを、野菜と調味料で煮る。最初はギョッとしたが、これが案外いけるのだ)など。登山のいいところの一つは、何でもおいしく、ガツガツといただけることなのだ。

4月4日〜9日、カナダには夏時間があり、4/4からアルバータ州と日本の時差は−16時間から−15時間へと縮小する。よって出発日は5時前には起きるハメになった。今回のセクションは、とにかく雪というものを学ぶためのアルペンスキーツアーだ。

場所は、キャンモアからバンクーバーへ向かって1号線を車で3時間、「グレイシャー国立公園」の中のロジャース峠を基点とする。フィールドに入る前に“ロジャース峠センター”に寄って、天気や雪崩情報、雪の状態のデータをチェックする。

情報はもちろん毎日更新されている。雪の状態とは、定点で雪を掘り、1日ごとの積雪量、地面から雪面までの各層の固さ(F=フィスト/握り拳を押し込める固さ、4F=4本指、1F=1本指、P=ペン、K=ナイフ、I=アイス)などがグラフで表されており、クラストした層など一目瞭然でわかる。さらに、入山者はセンターに登録して、戻らないとレスキューが出動する。一般的に危険地帯に入るレジャーが盛んなカナダならではである。

それにしても毎日とにかく雪の斜面をスコップで掘りまくった。深さ1m以上の層を切り出して、まず各層の幅、固さ、結晶の形、温度をチェックし、次にBurp Test(30cm四方の雪の層を切り出してスコップに乗せ、下から手で震動を与えて弱層を発見する)、Compression Test(同じくスノー・ソーで切り込みを入れた雪の層の上にスコップを乗せ、手でスコップの上から震動を与えて弱層を発見する)、Shovel ShearTest(同じく両手で支えたスコップを奥側の切れ目に差し込み、手前にゆっくり引っ張る)、Rutschblock Test(幅2m、奥行き1.5mの切り込みを入れた雪の斜面の上に、スキーをつけた人が乗って、雪の層がスライドするかどうか調べる)などを繰り返して弱層を調べる。弱層があると、軽い震動でスパッと切れ落ちるというわけだ。

不思議なもので、以前ならスコップやビーコンを持つのは重いし、弱層テストはやってる時間がないと思っていたのに、当たり前のように毎日やっていると重さも苦にならないし、テストも短時間でできるようになり、やらないと不安にさえなる。こういう“慣れ”は、大いに推奨すべきであろう。

もちろん、雪をサイエンスしていただけでなく、天候や雪崩の起きそうな地形の判断、地図とコンパスによるホワイトアウト(霧で視界が効かないこと)の中でのナビゲーション、雪崩が起きたと仮定しての発見シミュレーション、スキーで簡易ソリを作ってけが人の搬出、スキー登高のためのルートファインディングを学び、そしてパフパフのパウダースノーを滑る、というよりは重いザックに引かれてほとんど転げ落ちながら雪と戯れた6日間だった。

今回のセクションは、ずっと雨のような雪とホワイトアウトに祟られ、予定していた氷河スキーツアー、雪洞泊まりが出来ず残念だったが、次回の氷河講習スキーキャンプで体験出来るだろう。(雪に興味のない方、今回はちょっと専門的ですみません)